異物の迅速分析:同材質間での異同識別 ~食品用ラップ(PVDC)編~
はじめに
食品用ラップフィルムは、食料品加工現場で食品の保存や調理などで広く用いられているため、異物として食品中に混入するリスクが高い。異物混入対策として異物の発生源を迅速に特定することは急務であり、異物の迅速分析としてFT-IRが用いられることが多いが、同材質間での異同識別はできないため(Figure 1)、異物の混入経路を判断する手がかりを得ることはできない。今回、ionRocket を用いて食品用ラップ(ポリ塩化ビニリデン製、PVDC)を分析したところ、同材質間でも簡便迅速に試料を識別することができたため、本手法が異物分析に有効な手段であることが示唆された。
試料
食品用ラップ(PVDC)2種
(A・B *メーカーが異なる)
方法
分析システムは、DARTイオン源と質量分析計の間に、ionRocket(昇温加熱デバイス)を接続して構成した(Figure 2)。
試料(約0.5mm角)をPOT(試料台)に入れて、室温から600℃まで100℃/minで
昇温した。
結果
Figure 1のFT-IRスペクトルでは、可塑剤の影響によって材質を正しく判断できない。また、各試料間で差異も認められなかった。
Figure 3には、各試料のトータルイオンカレントグラム(TIC)を示した。各試料間のTICでは顕著な差異は認められなかった。
Figure 4には、昇温加熱200~300℃(一般的な添加剤が検出される)領域のマススペクトルを示した。各試料より、それぞれ異なる添加剤成分を検出したことから、添加剤を指標とすることで、両試料を識別することが可能である(各種添加剤は、Compound Searchによるライブラリ検索にて定性した)。
Figure 5には、昇温加熱300~400℃領域(一般的なポリマー熱分解生成物が検出される)のマススペクトルを示した。両試料より、PVDCの熱分解生成物を検出した。また、両試料のm/z 450近傍の熱分解物の検出強度が異なることから、ポリマー種はPVDCであるが、同一の基材ではないと推測される。
このように、 1試料あたり僅か7分程度の ionRocket DART-MS分析の結果から、「添加剤」「熱分解パターン」などを指標とすることでポリマー種を判断でき、同材質間でも識別することができる。そのため、FT-IRでは判断できない同材質間での異同識別も可能となることから、異物混入経路の詳細な検討や、品質管理及び鑑識などへの適用が期待される。
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