塗料の直接分析
はじめに
塗料は、素材の保護・美粧の他に耐汚染性などの機能を付与することを目的として塗布・塗装されるため、樹脂、顔料、種々の添加剤などの有機・無機成分から構成される複雑な混合系試料である。また、塗布・塗装前後で化学反応を伴うものもあることから、その配合調査を目的とした分析には分離・抽出などの前処理により多くの手間と時間を要する。今回、乾燥後の塗料を、ionRocket を用いて直接分析したところ、簡便に配合情報が得られることが示唆された。
試料
水色塗料2種(A社、B社)
方法
分析システムは、DARTイオン源と質量分析計の間に、ionRocket(昇温加熱デバイス)を接続して構成した(Figure 2)。
室温にて一晩放置して硬化した試料(約0.5mm角)をPOT(試料台)に入れて、室温から600℃まで100℃/minで昇温した。
結果
Figure 1のFT-IRスペクトルでは、A社、B社がアクリル系であることは明らかであるが、両試料間の差異は殆ど認められなかった。
Figure 3、Figure 4には、両試料のトータルイオンカレントグラム(TIC)とヒートマップを示した。TICでは両試料間に大きな差は認められないが、ヒートマップで詳細を確認すると、200℃および400℃近傍で検出成分に差異を認めたことから、両試料間で塗料の配合が異なることが示唆された。Figure 5には、 両試料の200℃および400℃近傍のマススペクトルを示した。両試料より、200℃領域では主として添加剤由来成分を、400℃領域では主として樹脂由来成分をそれぞれ観測した。
ionRocket DART-MS分析は、塗料を分離・抽出等の前処理をすることなく配合情報が得られることが示唆されたことから、塗料の研究開発や品質管理への適用が期待できる。
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