香水の”香りの移ろい”を科学する
はじめに
香水は、香りを楽しみ、その人の魅力を引き出すアイテムとして広く使われている。香水の香りは時間が経つにつれ変化すること、また、同じ香水であっても、塗布する部位の皮膚温よって香り方が異なることが知られている (右図) 。
本報では、Volatimeship DART-MSを用いて、香水の香りの経時変化を測定した事例を示し、さらに、塗布する部位の皮膚温が香り立ちにどう影響するかを調べた結果を報告する。
試料
香水(オーデコロン)
方法
分析システムを右図に示した。このシステムでは、濾紙に香水を滴下すると、揮発した成分がVolatimeshipによって連続的にイオン化部まで導入されるため、質量分析計で揮発成分をリアルタイムに測定することが出来る。濾紙の下にヒーターを設置し、香りが強く香るとされる部位の表面温度(胸元/33 ℃ 以下:高温部)と、弱く香るとされる部位(足首/27 ℃ 以下:低温部)の表面温度に設定して[1] 、実験をおこなった。
結果
Figure 1には、高温部の各成分の経時変化(3D)と平均マススペクトルを示した。このデータを解析したところ、検出された香りの放出挙動は、Figure 2に示した3種類に分類できた。
①滴下直後が最も強くやがて減衰する (e.g., m/z 81)
②滴下数分後から検出される (e.g., m/z 91)
③滴下10分後から検出される (e.g., m/z 117)
この様に、本手法を用いることで、トップノートやミドルノート等の放出挙動をモニター可能であることが示された。
Figure 1. 高温部の測定結果
Figure 2. 3種類の放出挙動
次に、香水を塗布する部位の温度が香り立ちにどのような影響を与えるかを評価した (Figure 3) 。滴下直後が最も強くやがて減衰する香り(e.g., m/z 81) では、立ち上がりは高温部の方が強く、低温部よりも早く減衰する傾向が認められた。遅れて検出されてくる香り (e.g., m/z 117) では、立ち上がりは高温部が早く、低温部の方が遅い傾向が認められた。このように、塗布部の皮膚温の差が、香りが立ち始めるタイミングと持続性、そして強度に影響していることが示され、本手法を用いることで香水の香りの変化を科学的に説明できるようになると期待される。
本報で用いたVolatimeship DART-MSシステムでは、試料を密閉する必要が無いため、試料の形状や大きさなどの自由度が高く、かつ、滴下・塗布などの動作直後からの連続した測定が可能である。そのため、実際に香水を皮膚に塗布し、その部位からの香り立ちを直接測定することが可能であり、香水の香りをデザインする際の新たな評価手法として用いることができる。また、比較した結果を客観的・視覚的に表示できるため、品質管理や分かりやすいマーケティング(販売促進)資料作成の手助けにもなると期待される。
Figure 3. 高温部と低温部の放出挙動の比較
[1] 家政学雑誌 31 (1980) 461-463
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