フッ素ゴムの構造解析(連鎖解析)
はじめに
・フッ素系高分子材料は、耐熱性・耐薬品性・耐摩耗性などに優れるため、自動車部品をはじめとする工業製品に用いられている。
高機能化のために共重合化や末端修飾などが行われることから、製品開発および劣化解析において構造解析は重要である。
しかしながら、Py-GC/MS では構成モノマー情報しか得られず、また、 MALDI-MS ではスペクトルを得ること自体非常に困難であり、19F-NMR 測定では 単離作業が必須であることから、構造解析が困難な材料の一つである。
・ionRocket DART-MS および KMD 解析を用いた、フッ素ゴムの連鎖解析事例について紹介する。
試料
・フッ素ゴム(3元共重合ポリマー)
方法
・分析システムは、DART イオン源と質量分析計(QTOFMS)の間に ionRocket(昇温加熱デバイス)を接続して構成した(Fig.1)。
・試料数mgをPOT に入れ、室温から600℃まで100℃/minにて昇温加熱しながら質量分析を行った。
・KMDプロットの作成には、KMD解析ソフトSpectra Scope(バイオクロマト製)を用いた。
結果
フッ素ゴムの熱分解領域におけるマススペクトル(DARTネガティブ)をFig.2に示すが、フッ素ゴムの構成モノマーの複数量体と推測される熱分解成分が検出されていることがわかる。m/z 184.98は、精密質量の組成解析によりC3F7Oであることから、PfMVE 由来であると推測した。さらにこの成分を起点として高分子量側を解析すると、PfMVE-TFE連鎖( m/z 284.98 )、PfMVE-PfMVE連鎖( m/z 350.97 )なども検出されていることが分かる。
Fig.2 のマススペクトルを KMD プロットに展開したものを Fig.3 に示すが、PfMVE連鎖の他にTFE連鎖由来(緑橙で示したCF2の繰返し構造を有する熱分解成分)も検出されていることが分かる。
このようにionRocket DART-MSは、フッ素ゴムの低分子量から高分子量熱分解物を検出できるため、フッ素ゴムの連鎖解析に応用できることが期待される。また、KMD解析を用いることで、検出された熱分解成分を比較的簡便に把握することが可能である。
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